変わらぬもの(五月病患者)
運命の女神は三人いるという。
クロト、ラケシス、アトロポス。それぞれが運命の糸を紡ぎ、その長さを測り、断ち切る。
これによって人間の運命が決定されると言われている。
しかし、運命……それそのものがどこに向かっているのかは誰も知らない。
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窓際にまるで鬼太郎のように前髪を長く伸ばした男がいた。
もう一時間ほどになるだろうか。微動だにせずぼんやりと窓の外を眺めて座っており、あまりにも動いていないために生きているのか不安になるほどだ。
カラカラと天井ファンが回る音だけが聞こえている。
あまり良くないとは思いつつカウンターの奥から桐原辰典は好奇に駆られて時折男を伺っていた。このカフェは彼の祖父母の営んでいる店で、時折手伝っているのだ。しかし、今は買い出しに出てしまったため全て辰典が相手をしなければいけない。
地域の見知った顔しか来ないつまらない店だと辰典は思っていたが、いざ知らない人が店に来るとうれしいよりも困るという感情が先に来る。
特にカフェオレだけ頼まれて口もつけずに一時間も居座られていると。
(別に他に客もいないし構わないんだが、一体何がしたいのか全くわからんな……)
暇つぶし本を読みながらぼんやりと考える。
(おそらく誰かと待ち合わせをしていると思ってたんだが……もう一時間も経っている。約束を破られたのならかわいそうだな。せっかくだし楽しい日を過ごして欲しいんだが……)
そんなことを考えていると、からんころんとベルが鳴り見慣れないスーツ姿の男が店に入ってきた。
二人も知らない人が来るなんて珍しいと考えた瞬間、彼が窓際の男の知り合いじゃないかと気付いた。全く関係のない男なのに、良かったと内心ほっとしてしまう。
「いらっしゃいませ」
少しだらしないスーツ姿をした男はきょろきょろと店内を見渡した。
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