ジンクスハラスメント(マキノン)

 四月のおわりの時期だった。

「桜の花弁が……地面に落ちる、その前に……捕まえることができたものは、願いが叶う……。そういう、古いジンクスがある……」

 握り込んだ手のひらに、なにか、小さな違和感がある。ギノルタ・エージがおそるおそる閉じた手を開いていくと、そこに見つけたのは小さな、淡い色の花びらだった。たった一枚、どういう偶然から紛れ込んできたものかとギノルタは周囲を伺う。

 春の訪れに先駆けて一斉に開花したソメイヨシノはたちどころに満開となり、そこから溢れた花弁はあっというまに市中に撒き散らされて――それはもうだいぶ前のことで、すっかり新芽の芽吹いた並木道をわざわざ見上げても、そこにはあの賑やかな春の名残は残されていないようだった。彼の手のひらの上を除いては。たちの悪いいたずらに遭ったような気分である。

0コメント

  • 1000 / 1000